国際会計基準導入の議論

 日経電子版が8月13日に掲出した「国際会計基準、導入へ揺れる議論」〔塚本奈津美〕は、2015年にも日本企業に導入が見込まれる国際会計基準(IFRS)について、具体論を詰める過程で実務との乖離が明らかになり、電機、鉄鋼など製造業の一角から異論が噴き出していると報じる。金融庁は企業会計審議会を開き、事態の打開を図ろうとするが、意見の調整は道半ばと記事は伝える。6月28日の企業会計審議会では、上場企業の幹部たちが「国際基準はM&A(合併・買収)の会計。製造業にはなじまない。日本の企業価値を守るべきだ」(JFEホールディングスの山崎敏邦監査役)、「原価の計算が一変するのは、経営の根幹にかかわるゆゆしき問題だ」(東京電力の武井優副社長)と口々にIFRSへの違和感を訴えたとか。この日の論点は、親会社「単独」の決算をどうIFRSに合わせていくかであり、金融庁はちょうど1年前、上場企業の連結決算にIFRSを先行して導入する方針を表明していて、上場企業側もIFRSへの対応に動きだしたかに見えていたが、春ごろから風向きが少し変わってきており、きっかけはちょっとした行き違いだったと記事は伝える。3月に、有力企業が大手監査法人の実務担当者を招いた勉強会で、監査法人が「IFRSで決算を作る場合、機械や工場の減価償却を毎年一定額の費用とする『定額法』が望ましい」と説明したところ、メーカーの財務担当者は「日本の製造業では毎年一定の比率で費用計上する『定率法』が一般的。すべての設備を洗い替えしたら変化が大きすぎるし、原価も販売価格も変わってしまう」とし、監査法人「IFRSでは定率法の事例が少ない。合理的に証明してもらわないと……」、メーカー「今まで日本で認めてきた手法ではないか。それならIFRSの導入はできない」となったとか。日本では製品の入れ替わりが速い半導体や電機業界などで、短期間で設備の減価償却を進める定率法を使う場合が多く、これを単体まですべて定額法に変更すれば原価は一変し、利益も税額も変わるため、「投下資金の回収が遅れかねない」(素材メーカー幹部)との声もあがっているとか。減価償却のあり方を巡る論戦は、企業のCFO(最高財務責任者)たちのIFRSに対する疑心暗鬼に火を付ける形となり、慌てた金融庁は4月下旬、「国際会計基準に関する誤解」というQ&Aを公表し、実際の国際基準(IAS16号)では「資産の使い方に応じた適切な処理」を求めていて、定額法、定率法、生産高に応じた比例法など様々な手法が認められている点を強調し、「優劣はない」(金融庁企業開示課)と火消しに回ったとの由。ただ、企業側は「監査が認められるかどうか不透明」となお警戒を解いておらず、IFRSの完全導入の前段として、日本の会計基準とIFRSの共通化作業を進める企業会計基準委員会(ASBJ)も、難しいかじ取りを迫られているとか。例えば持ち合い株式や海外子会社の為替変動など資産の変動を反映させる「包括利益」について、11年3月期から連結と単体の両決算に導入するかどうかで、ASBJ内の意見は二つに割れており、まず連結決算で開示する案で乗り切ったものの、今夏以降、年金の費用処理や研究開発費など、難しいテーマが続いているとか。議論がまとまらない背景には、企業のIFRSに対する考え方が、規模や業種によってさまざまであることも大きく、一口に上場企業と言ってもその数は3800社を超え、性格はひとくくりにできず、世界各地に現地法人を持ち、グローバルに資金調達をする大企業から、国内で事業が完結する中小・ベンチャー企業まで千差万別で、会計の国際的調和という理想を掲げられても、実務負担が割に合わないと感じる企業も少なくないとのこと。同じ大企業の中でも、連結と単体に関する姿勢は同一ではなく、「連結は国際基準、単体は日本基準に分けてほしい」(住友化学)、「金融規制への対応上、連単一致が望ましい」(三井住友銀行)、「単体を国際基準でつくる選択肢を検討してほしい」(住友商事)と住友グループ内ですら意見が分かれているとか。規模もニーズも異なる企業が1つのモノサシを使いこなすには、相当の工夫が必要と記事は評する。金融危機を機に金融商品会計の「時価」を巡る欧州と米国の考え方の違いも表面化しており、IFRSの基準作りを担う国際会計基準審議会(IASB)と米国の共通化作業が遅れ、「世界で1つの会計基準」が早期に実現する可能性が低くなってきているとか。国際基準自体も日々刻々見直しが入り、「ムービング・ターゲット」と揶揄(やゆ)するようなニュアンスで呼ばれるのが実情とか。7月8日の企業会計審議会では直近の国際会計界の情勢を踏まえ、「日本は第3の道を探るべきではないか」(辻山栄子・早稲田大学教授)との声も出ており、有力企業のCFOらが「もう少し情勢を見極めたらどうか」という気持ちに傾くのも無理もないと記事は伝える。ただ、「やらない理由」を持ち出して行きつ戻りつしているのは、日本にとっては得策ではないとの見方もあり、1980年代に始まった銀行の自己資本規制(BIS規制)から時価会計まで、日本は既に作られた金融ルールを「受け入れる」側だったが、09年に国際基準の導入を表明して以来、日本は米国、欧州、IASBの微妙な関係変化に乗じ、発言力を増してきた経緯があるとの由。日本がIFRSの適用に踏み出せば、商慣行に合ったルール作りを可能にするなど「自ら議論に参加し、国益を実現する」(三国谷勝範・金融庁長官)道が開けることも考えられ、また、「製造業が生産・消費の一大拠点とする中国、韓国、インドは既に国際基準を本格採用している」とIASBの運営母体IFRS財団の評議委員、島崎憲明・日本経団連企業会計部会長は語っており、日本にとって代わろうとする新興国勢が、IASBへの働きかけを強めているという。

コメントの投稿

非公開コメント

ブログ内検索
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
リンク
監査関係ブログ
【】内はカテゴリー ↓トップはライブドアニュース
月別アーカイブ
RSSフィード
プロフィール

reticent_auditor

  • Author:reticent_auditor
  • 寡黙な監査人
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる